富士山体を利用したガス・エアロゾル・雲の環境化学観測

Envirochemical observation of gases, aerosol, and cloud on Mt. Fuji

 

氏名 大河内 博(Hiroshi Okochi)
所属 早稲田大学創造理工学部/ School of Creative Science and Technology, Waseda University

共同研究者氏名・所属
勝見尚也(早稲田大学)/皆巳幸也(石川県立大学)/小林拓(山梨大学)/ 戸田敬(熊本大学)/竹内政樹(徳島大学)/米持真一(埼玉県環境科学国際センター)/中野孝教(早稲田大学)/村田克(早稲田大学)
Naoya Katsumi (Waseda University) / Yukiya Minami (Ishikawa Prefectural University) / Hiroshi Kobayashi(Yamanashi University) /Kei Toda (Kumamoto University) / Masaki Takeuchi (Tokushima University) / Shin-ichi Yonemochi(Center for Environmental Science in Saitama) / Takanori Nakano (Waseda University)/Masaru Murata (Waseda University)

 

研究結果の概要

 

富士山頂で消火剤に使われる成分をPM2.5のなかに発見 ! 富士山で火山ガスを調査

 

本研究の目的は,地球規模の大気質の現状を把握するとともに,越境大気汚染物質の実態解明を行うことです。そのために,富士山頂 (標高3776m)と富士山南東麓(標高1284m)で大気中ガス,粒子,雲水の観測を7月13日~8月22日にかけて行い,酸性物質,重金属元素,有害有機物など様々な大気汚染物質の分析を行いました。

 

雲粒の大きさや数によって太陽光の散乱のされ方が変わるため,雲粒は気候に大きな影響を与えることが知られています。雲粒の大きさや数に影響を与える物質として,界面活性物質という物質があります。身の回りでは油汚れを落とすための洗剤や消火剤に使われたりするものが,大気中に低濃度に存在することが報告されています。ただ,高度が3000 mを越えるような空気が綺麗な上空大気(自由対流圏といいます)では世界的にも観測例は少なく,日本ではまったく観測されていませんでした。

 

そこで,当グループでは2015年度に富士山頂で人工界面活性物質であり,有害な残留性有機化合物であるパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)およびパーフルオロオクタン酸(PFOA)がPM2.5(2.5 μm以下の粒子)にどれくらい含まれているのかはじめて調べました。

 

2016年度には,雲が発生していても雲を除去しながらPM2.5が採取できる装置を用いて採取を行いました。二年間の観測の結果,富士山頂では海から綺麗な風が吹いているときは,PM2.5のなかの界面活性物質濃度は低いですが,大陸方向から空気が運ばれてくると界面活性物質濃度が高くなることがわかることが分かりました。また,これらの界面活性物質濃度はヨーロッパよりも中国で高く,中国から排出されたものが富士山頂に運ばれてきているようです(図1)。


2016年度は,将来の富士山噴火に備えて火山ガス(二酸化硫黄と硫化水素)を微量で検出できる装置を開発し,箱根大涌谷と300年前に噴火した宝永火口で火山ガス調査を行うとともに,富士山頂でも微量な火山ガスの調査をはじめて行いました(図2)。現在,結果をまとめているところですが,もしかしたら大発見があるかもしれません。

 

図1 富士山頂におけるPM2.5中界面活性物質濃度と世界との比較。

図2 富士宝永火口におけるμGasを用いた火山ガス調査。右2番目の戸田先生(熊大)が1台を背負い,左端の溝口君(戸田研M1)が手で持っている。


 

研究成果の公表予定
Megumi NAKAMURA, Hiroshi OKOCHI, Shin OGAWA, Hiroko OGATA, Toshio Nagoya, Naoya KATSUMI, Yukiya MINAMI, Hiroshi KOBAYASHI, Kazuhiko MIURA, Yoko IWAMOTO, Mitsuo UEMATSU, Observation of Cloud Water Chemistry in the Free Troposphere on Mt. Fuji, 7th International Conference on Fog, Fog Collection, and Dew (Poland). ポスター賞受賞
廣川諒祐,大河内博,勝見尚也,大気粒子中陰イオン界面活性物質の動態と起源推定(4),第57回大気環境学会(北海道)
中村恵, 大河内博, 緒方裕子, 勝見尚也, 皆巳幸也, 小林拓, 三浦和彦, 岩本洋子, 加藤俊吾, 植松光夫, 富士山体を利用した大気境界層および自由対流圏の雲水化学特性の解明 (2) ,第57回大気環境学会(北海道)
山地達也,大河内博,緒方裕子,勝見尚也,戸田敬,山間部豪雨の実態解明と火山ガス早期検知システムの開発(1),第57回大気環境学会(北海道)